ダニと喘息

 

ハウスダストによる気管支反応

気管支喘息患者にとって重要なアレルゲは家屋塵であり、その最も重要な成分がhouse dust mites である。この家屋塵を喘息患者に吸入負荷すると約90%の患者で負荷後15−30分後に即時型の気管支反応が起こり続いて4−6時間後に遅発型の反応が起こる11)。ダニにおいても全く同様のことが報告されている30)。この一連の反応を2相性の反応(dual response)と呼ばれている。即時型の反応が強ければ強いほど遅発型の反応も強い11)。即ち即時型反応と遅発型反応は一連の反応である。今日IgEによる抗原抗体反応の結果起こるマスト細胞を中心とする反応であるとされている。この反応は種々の薬剤によって変化する。インタールは即時型・遅発型の両方抑制する。ステロイドは即時型をほとんど抑制しないが、遅発型を完全に抑制する。テオフィリンは両方抑制するが完全には抑制できない。β刺激剤は即時型を抑制するが遅発型は抑制できない。長時間作用型の場合は遅発型も抑制する(図1)。

 

ダニの生態

チリダニ(Pyroglyphidae)科、ヒョウヒダニ(Dermatophagoides)属のヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides peteronyssius)とコナヒョウヒダニ(Dermtophagoides farinae)がハウスダストの重要な抗原となっている。ダニは小児気管支喘息への進展に重要な危険因子として指摘されている。

ダニのライフサイクルは5段階に分けられる。卵、幼虫(larva)、前若虫(protonymph)、後若虫(tritonymph)、成虫(adult)でその成長は温度・湿度に依存している。ヤケヒョウヒダニは25℃で最も成長が早く20℃以下、30℃以上でも成長は鈍化する13,14、15)。ライフサイクルは湿度75%にして16℃で123日、23℃で34日、30℃で19日、35℃で15日である16)。一方コナヒョウヒダニは16℃、35℃ではほとんど成虫になれない。23℃で36日、30℃で18日である17)。温度23℃、湿度75%の条件でコナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニともに26−34日間の産卵期に1日2−3個の卵を産む。繁殖率は湿度75%でヤケヒョウヒダニが32.5%で、湿度65%で17.5%である18)。湿度が85%になると両方とも密度生存数が減少する19)。湿度以下に維持するとダニ数を減らすことが出来る。25-34℃で湿度を40-50%にすると5−11日で脱水のために死滅する21,22)。最近は加湿器も50%に維持できる機能をもったものが市販されている。一方温度においては55℃以上になると死滅する。洗濯の時は55℃以上の湯を使用することが勧められる。ぬるま湯や冷たい水はダニを殺せないが、ダニアレルゲンは水に可溶性なので洗い流すことが出来る。逆に−17℃から−20℃のフリーザーで1日凍結しても死滅する20)

 

ダニに対する感作と予防     

室内塵1g当たりのDer p1 の量をDer p1μg/gdustとして表現する。2 Der p1μg/gdustはダニによる感作の危険因子であり6)、10 Der p1μg/gdustは喘息発症の危険因子であり2)、10 Der p1μg/gdustは生ダニ100匹に相当するといわれている1)。しかし0.002〜2.0 Der p1μg/gdustでも感作され得る6,10)。ダニに対する感作の閾値はなく喘息患者はできるだけ環境中のダニ抗原を低く保つことが望まれる28)。ダニ抗原が感作しやすいのはダニに含まれているsysteine peptidase による蛋白分解酵素によって気管上皮の透過性を昂進させることによると考えられる25)。乳児でアトピー性皮膚炎の患者でダニにアレルギーのない児をアレルギー予防用のベッドカバーを使用した群としなかった群に分けて調べたところ、カバーを使用した群ではダニIgE抗体は0.7U/mlであり、プリックテストの陽性率は31%であったが、使用しなかった群では2.5U/mlで陽性率は63%であった。寝具のダニの量は使用群で0.77ミクログラム/g dust 非使用群で30.ミクログラム/g dust であった24)6ヶ月の時点でダニに対するIgE抗体が0.23-0.35U/ml、高IgEでさらに卵白IgEが陽性であれば5歳時にダニIgEが陽性になる23)。喘息発作のために再入院を要する患児は大量のダニに暴露(10ミクログラム/g dust 以上)されてしかも感作(RASTスコア1以上またはプリックテストで3mm以上の膨疹)されている26)

 

寝具とダニ

小児気管支喘息の発症にとって布団は毎日接触しており、また接触時間も長いため重要である。日本人の一般のフトンのダニ抗原は10μg/gを越えている31)。週1回の寝具の丁寧な掃除で改善のみられた患者の寝具のアレルゲン量は5.5μg/gであったが、改善しなかった群では11.6μg/gだった3)

敷き布団のダニ抗原量は秋が多く2,3月が一番少ない4)。これは小児喘息患者の発作が秋に多く、冬に少ないのと一致する。寝具ダニアレルゲン量>=寝室アレルゲン量の関係が常にみられ、ダニ発生源は寝具と考えられる。また石油又はガスストーブを使う暖房は室内、特に押し入れ内が高温、高湿になりやすく、寝具ヤケヒョウヒダニ増殖を促す5)。寝具のダニ対策として布団の丸洗いが有効であるが、1年後には再びダニが繁殖する。最近高密度繊維を使用した防ダニ布団カバーが販売されている7,8)。実際その使用によって発作が軽減されている。しかし1年6カ月後にはダニ抗原が増加したとの報告もある27)ので、1年6カ月後には布団の丸洗いが必要である。防ダニカバーとダニ増殖防止加工した繊維を使用した布団を組み合わせた場合は少なくとも2年は有効である9)。しかし防ダニカバーは夏には汗をかきやすいのでカビに気をつけなければならない27)。小児では喘息発作は1年間のうち秋が最も多く冬に少ないが、敷きフトンのダニ抗原量を測定すると秋に抗原量が多くなり、2,3月に一番少なくなる29)

じゅうたんは湿度の高い日本ではダニの絶好の繁殖場所となっている29)。最近はこのことがかなり浸透してきて、新築マンションではほとんどじゅうたんは敷かれないようになってきている。じゅうたんからフローリングにした場合の効果は大きい35)。どうしても除去できない場合は除湿が勧められている32,33)。電気カーペットは日本ではよく使用されている。電気カーペットの温度は中央では50-55℃になっているが端では20-30℃にとどまっている。湿度も中央では10-20%であるが、端では60%前後である。実際のダニの死亡率は中央では100%であるが端では40-80%である34)。対策として八つ折りまたはロール状に丸めて電気を通す。その後は掃除機をかけなければならない34)

寝具、じゅうたんに次いで重要なのはソファである。ソファのダニ抗原量は寝具やじゅうたんよりも多い36,37,38)。合成皮革のソファは少ない38)

小児科にとって重要なのはぬいぐるみである。このダニ抗原量は極めて多く、無視出来ない37,38,39)。対策としては掃除機で吸引するよりも中性洗剤によるもみ洗いが勧められている39)

 

      まとめ

  ダニ対策として以下のことがすすめられている。

1.                枕を10マイクロメーター以下の高密度繊維または通気性のカバーで包む

2.                マットレスも通気性カバーまたはプラスチック製カバーで包む

3.                フトンは高密度繊維で包む

4.                シーツは1週間に1回洗う(55℃以上で洗うのが理想)

5.                ぬいぐるみは寝室には置かない.ある場合は1週間に一回洗う

6.                電気掃除機(二重パックまたはHEPAフィルター式)がけを1週間に一回は行う(掃除の間はマスクを、後は20分間部屋に入らない)。佐々木は2週間に一回、20秒/mかけて掃除を勧めている。

7.                カーペットは除去しフローリングに

8.                湿度を下げる

9.                ソファ、イスなどは革、合成皮革または単純な木製にする。

10.            布製カーテンはブラインドにする。

11.             地下室のような場所では生活しない。


 

文献

1)      Platts-Mills T A E, Chapman M D  Dust mites:Immunology, allergic disease, and environmental control. J Allergy Clin Immnol  1987;80:755-775

2)      佐々木聖:ダニ駆除法とその効果 小児科診療 1991;54:1133-1138

3)      森永謙二、吉田政弘、伊東利章、久留飛克明、富永修、他 ダニ対策(寝具への掃除機かけ)による小児喘息症状改善の試み 医学のあゆみ 1999;188(2):159-160 

4)      神田康司、岩佐充二、安藤恒三朗、今枝弘美、他 喘息児の家庭内のダニ抗原量の推移と臨床症状の関連について 日本小児アレルギー学会雑誌 1997;11(4):256-262

5)      中島孝江、東恵美子、橋本正史、他 都市域における小児気管支喘息の発症要因(1) 室内空気汚染の関与について 日本公衆衛生雑誌 1998;45(5):407-422

6)      Charpman D,Dutau H Role of allergens in the natural history of childhood asthma. Pediatr Pulmonol Suppl 1999;19:34-6

7)      井上寿茂、豊島協一郎、吉田政弘 寝具のダニの環境整備 1989942-43

8)      井上寿茂、林田道昭、土井悟、高松勇、豊島協一郎 199111438-40

9)      大谷武司、木村康子、阪口雅弘、井上栄、飯倉洋治、安枝浩 特殊防ダニおよびダニアレルゲンの管理 アレルギー 199241411-7

10)  Huss K, Adkinson N F, Eggleston P A, Dawson C, Van Natta M L, Hamilton R G :House dust mite and cockroach aree strong risk factors for positive allergy skin test responses in the Childhood Asthma Management Program. J. Allergy Clin. Immunol. 2001,107(1):48-54

11)  黒坂文武、中沢洋、佐竹格、宝角美穂子、木花厚生:House Dust 吸入誘発によるLate Asthmatic Response の研究 1979,28(9):659-65

12)  Varner AE,Lemanske RF;The ealy and late asthmatic response to allergen. Asthma&Rhinitis;Bkackwell Science 2000,vol1:1172-85

13)  Spieksma FTM;The house dust mite Dermatpphagoides pteronyssius(Trouessart,1897).Producer of the house-dust allergen(Acari:Psorptidae). Leiden,the Netherlands:Leiden State University;1967

14)  Koekkoekkoek HHM, van Bronswicjk JEMH. Temperature requirements of a house dust mite Dermatophagoides pteronssinus compared with the climate in differents habitats of houses. Entomol Exp Appl 1972;15:438-42.

15)  Dobson RM. Some effects of microclimate in the longevity and development if dermatophagoides pteronyssinus(Trouessart). Acarologia 1979;21:482-6

16)  Arlian LG,Rapp CM,Ahmed SG. Development of Dermatophagoides pteronyssinus. J Med Entomol 1990;1035-40

17)  Arlian LG,Dippold JS. Development and fecundity of Dermatophagoides farinae. J Med Entomol 1996;33:257-60

18)  Arlian LG,Confer PD,Rapp CM,Vyszenski-Moher DL,Chang JCS. Population dynamicn of the house dust mites Dermatophagoides farinae. D. pteronyssinus and Euroglyphus maynei at specific relative humidities. J Med Entomol 1998;35:46-53

19)    Arlian LG,Neal JS,Vyszenski-Mother DL. Reducing relative humidity to control the house dust mite Dermatophagoides farinae. J Allergy Clin Immunol 1999;104:852-6

20)   Arlian LG,Platts-Mills TAE The biology of dust mites and the remediation of mite allergens in allergic disease. J Allergy Clin Immunol 2001;107:S406-S413

21)   Arlian LG. Dehydration and survival of the European house dust mite, Dermatophagoides pteronyssinus. J Med Entomol 1975;12:37-42

22)   Brandt RL,Arlian LG. Mortality of house dust mites, Dermatophagoides farinae and D. pteronyssinus exposed to dehydrating conditions or selected pesticides. J Med Entomol 1976;13:327-52

23)   Sasai K,Furukawa S,Muto T,Baba M,Yabata K,Fukuwatari Y Early detection of specific IgE antibody against house dust mite in children at risk of allergic disease. J Pediatr 1996;128:834-40

24)   Nishioka K, Yasuda H, Saito H Preventive effect of bedding encasement with microfine fibers on mite sensitization. J Allergy Clin Immunol 1998;101(1 Pt 1):28-32

25)   Wan H,Winton HL,Soeller C,Gruenert DC,Thompson PJ,Cannell MB,Stewart GA,Garrod DR,Robinson C  Quantitative structural and biochemical analyses of tight junction dynamics following exposure of epithelial cells to house dust mite allergen Der p 1. Clin Exp Allergy 2000;30(5):685-98

26)   Sporik R,Platts-Mills TA,Cogswell JJ  Exposure to house dust mite allergen of children admitted to hospital with asthma. Clin Exp Allergy 1993;23(9):740-6

27)   永倉俊和、正木拓郎、前川喜平、他 超極細高密度織物を利用した防塵ダニ寝具(ピューリストフトンとミクロガードフトンカバー)の18ヶ月間のモニター(コントロールスタディー) 喘息;11(2):104-8

28)   Warner AM,Bjorksten B,Munir AKM,Moller C,Schou C,Kjellman N-IM Chilodhood asthma and exposure to indoor allergens:low mite levels are associated with sensitivity. Pediatr Allergy Immunol 1996;7:61-7

29)   舘野幸司 環境アレルゲンとその対策−ダニを焦点として− 感染・炎症・免疫;19(2):111-27

30)   Booij-Noord H, de Vries K, Slutter HJ, Orie NGM Late bronchial obstructive reaction to experimental inhalation of house dust extract. Clin Exp Allergy 1972;2:43

31)   坂口雅弘 環境アレルゲンの定量−ダニアレルゲンを中心として− アレルギーの臨床 1997;17(7):494-8

32)   Cabrera P. Julia-Serda G, Castro FR, et al Reduction of house dust mite allergens after defumidifier use. J Allergy Clin Immunol 1995;95:635-6

33)   増田進、堀場史也、安藤仁志、宇理須厚雄 他 絨毯使用の学校におけるダニ抗原量の測定 除湿機によるダニ抗原量減量効果 アレルギー 1999;48(8,9):1046

34)   永山洋子 カーペットの管理のポイント 気管支ぜん息に関わる家庭内吸入性アレルゲン公害健康被害補償予防協会1998;83-91

35)   須藤千春 チリダニ類の生物学的特等と防除対策 アレルギーの臨床 1997;17(7):513-8

36)   鈴木五男 ソファの管理のポイント 気管支ぜん息に関わる家庭内吸入性アレルゲン公害健康被害補償予防協会1998;95-103

37)   高増哲也、栗原和幸、猪又直子、五藤和子 アレルギー疾患患者の家庭内の塵のダニ抗原量の測定 日本小児アレルギー学会誌 1997;11(4):263-267

38)   大谷武司、衣川直子、飯倉洋治、星房子 小児気管支喘息児の家庭内環境とダニの分布 アレルギー 1984;33(8):454-62

39)   永倉俊和 ぬいぐるみの管理のポイント 気管支ぜん息に関わる家庭内吸入性アレルゲン公害健康被害補償予防協会1998;105-1


 

図1 遅発型反応における種々の薬剤の効果12)

     

薬剤                 効果

抗ヒスタミン           

   第1世代            +/-

   第2世代            +/-

クロモリン・ソディウム        ++

ネドクロミル・ソディウム       ++

ケトチフェン             +/-

ステロイド

   経口              ++

   吸入              ++

非ステロイド抗炎症剤         +/-

交感神経刺激薬            

   短時間作用型          NE

   長時間作用型          ++

メチルキサンチン           +/-

ザフィルカスト            +

ジレウトン(5-lipoxygenase inhibitor NE

フロセマイド                    ++

ヘパリン               NE

減感作療法              +

+軽度の効果 ++著名な効果 +/-不定の効果 NE効果なし

 

          TOPへ
          ホームページ