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 アルゼンチンを旅行して、他の国と違うなと思ったことは、お金です。1ペソがちょうどアメリカの1ドルなのです。完全に米ドルとリンクしているので、ドル相場になじみのある私たちには比較的お金の価値が判断しやすい。米ドルがそのまま通用することも多いのです。

 もう一つ意外だったのが、治安です。中南米ではもっとも治安がいいと聞いてきましたが、予想外に治安が悪いと感じました。そこで、そういったことの実情やその社会的な背景について、少しご説明してみたいと思います。もっとも、僅か10日ほどの見聞によるものですから、独断と偏見に満ちたものであることをお許しください。
          

 20世紀の初め、アルゼンチンは急速な経済発展を遂げます。1926年ごろには、政治・経済的に頂点を極め、一人あたりのGDPは、当時世界最高のアメリカの70%まで近づき、イタリアの倍近く、まさにベル・エポックを謳歌していました。
 
 ブエノスアイレスに地下鉄が初めて開通したのは1913年。東京に開通したのは、その14年後ですが、地下鉄建設に当たっては、ブエノスアイレスに視察に行ったといいます。それが今では、東京の丸の内線や名古屋の市営地下鉄の中古車両がブエノスアイレスの地下を走っています。20世紀の後半で、日亜両国の経済力はまったく逆転したのです。

 20世紀後半のアルゼンチンは、第2次大戦後の一時的なブームはあったものの、経済不振と、政情不安定の時代がずっと続きます。戦後のブームの時登場したペロン政権が、豊富な資金を使って、外資企業の国有化、労働組合優遇などの政策をとり、それが高生産コスト体質を生んで、国際競争力低下の原因となったといわれています。

 そしてついに、カフェのコーヒーの値段が、朝、昼、晩で違うという、ハイパー・インフレに見舞われることになります。1980年代の一人あたりのGDPの対米比率は、35%程度にまで落ちこみました。

 その後、長年の軍事政権から民政に移るとともに、緊縮財政、国営企業の民営化、公務員の給与カット、1ペソ=1USドルの固定相場制の導入などの、構造改革政策によって、現在は、経済的にも、政治的にもようやく安定しているように見えます。

 しかしその影響は労働者にしわ寄せされ、ちょうど私たちの滞在中にも、政府の緊縮財政政策に反対するストが行われていました。そのため、私たちのイグアス行きの飛行機も欠航するかもしれないということになり、心配しましたが、何とか解決したようで、予定どおり行くことができました。

 このように長年にわたる経済の不振とその結果の構造改革等によって、貧富の格差が増大しました。かつてこの国の経済の繁栄を支えてきた中産階級が没落し、金持ちと貧乏人のニ極分化が進んだということです。この結果、「昔はこんなことはなかったのに・・・」と現地の人たちを嘆かせる、治安の悪化を招いています。

 市内のマンションに住む数軒の親戚を訪ねましたが、どこも1階の玄関は、オートロック等で鍵がないと入れないようになっています。高級なマンションでは、ガードマンが24時間常駐していました。郊外のリゾート地としてbessou.jpg有名なティグレへも行きましたが、高級別荘では治安悪化のため、空家が増えているそうです。

 代わって増えているのが、ゴルフ場付きの別荘団地。回りを塀で囲って、入り口では、ピストルを持ったガードマンが、入ってくる車をいちいち検問しています。一歩中に入れば、ゴルフ・コースやテニスコートなどを中心に、豊かな自然の中に別荘が点在するという別世界。中には、数百軒もの大きな団地もあって、別荘としてではなく、ここに定住している人も少なくないそうです。


 治安の悪さは、タクシーの悪徳ドライバーが多いことにも表れています。実際に被害を蒙った例もいくつか聞きました。現地の邦字新聞にも、被害の例が連日報じられていました。旅行者にとって、タクシーが使えないのは、とても不便なことです。代わりに勧められるのが、レミスというハイヤー。値段もタクシーに比べそう高くなく、日本語の通じる日系の会社もあります。

 先に米ドルも使えると書きましたが、現地のペソも、米ドルも偽札が多いそうです。ちょっと高額のお札で払うと、お店の人はかならず光にかざして、透かしを確かめます。もっとも透かしの入った巧妙な偽札もあって、現地の人でも騙されるそうですから、旅行者にとってはどうしょうもありません。

 公務員も給与カット等があって、モラルも下がっているようです。往きの飛行機で知り合った人に、「税関では、日本人は狙われる。電気製品など持っていると、手を出してワイロを要求してくるので、言葉が解らないふりをしなさい」との注意を受けました。案の定通関の際、私たち全員がスーツケースを開けさされました。幸い目ぼしい物がなかったので、何事もありませんでしたが、現地の慣れた日本人などは、電気製品などを持ちこむ時は、あらかじめ何がしかの”プライベート関税”を用意しておくそうです。
          
 
 以上、旅行される方の注意のため、あえて問題点を書きましたが、アルゼンチンは決してそれほど危険な国ではないと思います。今でも恐らく中南米ではもっとも安全な国の一つでしょうし、街を歩いていても、アメリカやヨーロッパの方が、むしろ緊張感を感じます。幸いにして超安全な国に住んでいる私たち日本人は、海外のどの国へ行っても、カモになりやすいので、用心するに越したことはありません。
 
 日本では今、戦後の高度成長の後遺症で、政治的、経済的に、閉塞状況にあり、”構造改革“が叫ばれています。しかしそれが弱肉強食の社会をもたらし、治安の悪さまで国際化しては困ると、帰りの飛行機の中で、従弟に貰った「アルゼンチン政経情勢概況」という資料を読みながら、感じた次第です。